藻岩山 日々登る人もいる、天然記念物の山 〜その1

 藻岩山。およそ195万人が住む政令指定都市・札幌にありながら、北海道開拓当時の自然がほぼそのまま残る天然記念物の山。

 標高531m。山頂からは札幌の街、石狩湾、連なる山並みを360度ぐるりと一望できる。天気が良ければ国立公園に指定されたばかりの日高山脈も見える。日が落ち、街のネオン、ここに住む私たちの生活の明りが灯る山頂からの眺めは、日本新三大夜景に過去3度認定された。

 藻岩山は毎日登る人がいるほど札幌市民には親しみのある山。登山口は旭山記念公園、慈恵会病院前、市民スキー場、小林峠、そして北の沢、の5つ。

藻岩山登山道一覧(もいわ暮らし)

 今日は慈恵会口から登り、「馬の背」(急坂の間にあるなだらかな坂で、慈恵会口や北丿沢口などが合流する場所)へ向かう。踏み固められた土、道幅2m前後の道を三十三観音さまを数えながら進む。右手からは笹で覆われた急な崖下の沢の音、鳥の声が四方から聞こえる。木の根が足がかりになる坂道や日本初のスキーリフト跡などを通りながら、数分おきに、「こんにちは」と挨拶を交わしつつ下山する登山者とすれ違う。

慈恵会登山口近くの道
慈恵会登山口近くの道

 急な木の階段が10分ほど続く。足がきつくなってきた頃、山道を左に曲がったと同時に、木の間に眩しい光が広がる。数メートル、最後の坂を上りきると平地になる。馬の背についた。ベンチが3つあり、水を飲みながら疲れを癒す登山者達が座っている。

馬の背到着前の階段
馬の背到着前の階段

 馬の背から1分ほど登り、19番目のお地蔵さまの近くで道が二股に分かれる。左は山頂、右は北の沢登山口へ続く。北の沢登山口まで1.3km。コロナやアーバンベア(※人里に現れるクマ)が現れる2~3年前は毎日登山する地元の人や、北の沢口から登りに来る車が日に4~5台あったという。

 分岐の道は道幅が50cmほどになり、人と譲り合わないとすれ違えない。道は踏み固められている。足元近くに植物が迫る。鳥の声、木の葉が風で揺れる音が大きくなる。人工的な音は自分の鈴の音だけだ。ほとんど人通りもない。往復路、1度も人とすれ違わない日もあった。

 

 立ち止まって写真を撮る。

 自分が止まると時々周囲にいる動物の音が聞こえる。姿を見つけられないことが大半だが、笹が揺れる音で大きさと動物名を思い量る。

 リスが木の実を食べている音がする。周囲を見渡すが見つけられない。まだ音はする。ふと見上げると、リスと目が合う。リスは一瞬硬直し、「△#&※%!」と叫ぶやいなや、慌てて木の上方に駆け上り、さらには隣の木に飛び移りまだ上に登っていく。木の実はきっと落としただろう。山にお邪魔していることを思い出し、恐縮する。

 

 ゆるく蛇行した道を進むと半径5mほどある楕円のカーブの道に出る。急角度のカーブでU字の中心に向かって下り、中心からは少し急な坂を上る。右手は浅い崖。道幅が狭いので注意して歩く。そこを越えるとちょっとした見晴らしが待っている。木と木の間から空と山並みが見える。往路・復路とも登り坂のてっぺんにあるこの場所は、曇りでも晴天でも立ち止まってしまう。

 

 坂道を下る。水の音が聞こえる。一足で跨げるほどの小川。小川と垂直方向に険しい坂道が延びる。下から見ると30mほどのはしごのようだ。。坂に角材や丸太を打ち付けた階段が作られている。水はせせらぐ日も留まって見える日もある。ひと月の間で、登山道に咲いていた花が種になり、足元にあった笹が新芽を150㎝まで伸ばしている。山は人間と同じように毎日生きている。険しい坂を登り始める。息は上がるが、あっという間に登り終わる。


 緩い下り坂を進む。雨の日は足元にかたつむりが沢山歩く。500円玉ほどの大きさのかたつむりが、ゆっくり歩く。そして登山道のど真ん中で草を食べ始めた。道の脇に寄せようと殻をつまむが、土にがっちり張り付いて動かない。帰りに踏まないよう場所を覚える。

 

 10分ほど歩くと登山道の脇に沿うように倒木が横たわる。子供も大人も座れるような軽く曲がった幹。険しい坂の後にあるのは人が移動したからなのだろうか?

 

 5分ほど下っていくと案内板と車が5台ほど止められそうな広場、そしてベンチが1つある。北の沢口まで0.4km。右折れに低草が生えた2m幅ほどの道が延びていて、その中に並行して3本、土が見える道がついている。外側の2本は車のタイヤの幅くらいだ。以前、広場は駐車場だったのだろうか…。

 3本道の中央の道を下ると、T字路に案内板が立つ。北の沢口まで0.1km。10cmほどの水の流れを跨ぐとまっすぐな1本道が続く。木のアーチの一番奥が明るい。北の沢登山口に到着だ。

 

 北の沢登山口から山頂を目指す。もと来た道を戻る。

 人に慣れていないような雀より小さな鳥、3~4羽が山道のすぐ脇の笹薮にいたようだ。人間の気配に慌てて逃げるが、周囲の笹を揺らしながらみんな遠くへ行けない。近くの笹から笹へバタバタと飛び移るばかり。春の終わりは鳥の子育て時期だ。さっきのかたつむりはまだ葉っぱを食べていた。小川と接する急坂の階段も下りは一層短い。見晴らしスポットでまた写真を撮る。

 

 北の沢口から馬の背までの片道1.3kmは、毎回あっという間に歩けてしまう。北の沢口からの登山は、原始林・藻岩山の姿を垣間見せてくれる。

 馬の背に着く。山頂まで1km。

 下山の人と挨拶を交わしながら登る。鳥の声、木擦れの音と混じり、鈴の音や足音が響く。道は広く、歩きやすいと気付く。徐々に坂道が急になる。登り疲れる頃を見計らったように札幌の街を見下ろせる場所が2か所ある。その後、急な登りが続く。ごつごつした岩の道や、角材を打ち付けた階段がつづら折りに続く。三十三観音様の番号を見ながら進む。30番、31番…。道が二股に分かれる。山頂だ。左手が龍神様の神社、右手が山頂展望台の入り口に出る道。


 山頂に到着した!!

 

※このあと、「その2 山頂編」につづきます。

(文・写真:林里美 もいわ塾3期生 2024.7)