表具師・木下隆さん (やまなみ町内会)
掛軸・書画帖・額・屏風・衝立・襖などを作り上げる職人
表具師(ひょうぐし)という職業をご存知だろうか。「表具屋さん」と呼ばれる事もある。 掛け軸や襖、屏風などを仕立てる職人だ。新しく制作するだけでなく、 歴史ある文化財等を修復するなど仕事は多岐にわたる。
この職業の由来は古い。表具師が日本の歴史に登場するのは奈良時代のこと。仏教の伝来により、布教を目的に経典を巻物にする仕事をしたのが表具師の始まりだそうだ。
私たちのご近所に、木下隆さんという表具師がいる。 1947年、新潟県新発田市生まれ。1963年から京都の表具店で8年修行し表具師の道へ。 修行中に、臨済宗の盛永宗興老師にめぐり逢い、仏教の世界に興味が募り弟子入りを申し出るも「日本の伝統文化は、職人技で継承されるもの。その道を進め」と諭されて仏門に入るのは諦める。故郷の新潟に帰ろうかとも思ったが、独立した職人として生きていけそうなところとして北海道を勧められ、25歳のときにに1人で札幌へ。北海道には表具の職人が珍しい時代。だが材料は何も無いに等しく、京都まで買い出しに行っていたという。
今の仕事は、茶室の腰張りと言われる壁紙貼りや、障子の張替えをはじめ、ふすま、掛け軸、屏風など、どんなことでも行う。 裏千家北海道茶道会館の茶室も、4年毎に依頼されて担当している。 その他、仕事があれば全国何処へでも行く。今年は6月に富山県へ出掛けたのを始め、島根、鳥取、愛媛、岐阜、兵庫など、全国各地に出向く。茶室関係の仕事が多いという。
1984年に自宅兼仕事場を北丿沢に移し、現在に至る。そのご自宅にお邪魔させてもらった。敷地の塀の上部に瓦が使われていたり、玄関や、格子使い、ガラス戸と欄間等、日本家屋の趣がある。案内された部屋は京間と言われる和室で、畳が一般のものより少し大きい。床の間の掛け軸はもちろん自身の仕事だ。
2階の階段を上ると、仕事場があった。美濃和紙、越前和紙などのさまざまな和紙や、掛け軸用の布地がストックされている。 古い織物裂地や断片も、数多くあり、水場の前には糊を塗るための何種類もの刷毛がかかっている。
これが茶室の障子の正式な貼り方。小さな紙を継いで、あえて継ぎ目を作る。この線が全体のデザインの一部になる。
「仕事がたくさんあったのは30年前まで」という。「お茶室を持つような、会社の社長さんとかが多かったですね」
北海道に木下さんのような表具師はいるのだろうか。
「茶室の仕事をやるのは私くらいかもしれないですね」と木下さん。
いちばん難しいのは障子張りだそうだ。和室の窓の障子をよく見ると、紙の途中に継ぎ目がある。これが茶室の障子の本来の貼り方で、四角い和紙を継ぎながら張っていく千鳥張り・石垣張りと言われるものだそうだ。継ぎ目は規則的な位置に置かれ、障子全体で見るとそれがデザインにも一役買っているのがわかる。「継ぎ目は必ず左が上になるように、紙の重なりは3ミリ」が原則だそうだ。 76歳 の現役表具師が、この藻岩地区にいる。
(文・石丸邦靖 もいわ塾2期生 写真:吉村卓也)